第19章 戻りたい
ユウの父親の車の助手席に座り、
消臭剤と煙草が混じった匂い。
家の中ではヤニ臭はしなかったから
いつもベランダの方で
吸っているのだろうかと勘繰ってしまう。
「煙草の匂いするかな。ごめんね」
「ああいえ。
現場で慣れてるので平気です」
「祐次郎から毎日聞いているよ。
アキくんは
モデルや役者の仕事やってるんだってね。
深夜ドラマにも出演したって…。
雑誌を見たりしたから
実は君のことは
少し知っていたりするんだ」
「ああ…そうでした。
だったら尚更、ご挨拶が遅れました」
8時を過ぎたら帰ってくると言っていたが、
それを過ぎても
一度も会うことはなかった。
転校のために引っ越して、
更には
ユウの高校の近場に移り住んだから
職場から遠くなってしまったのだろう。
「祐次郎は、
学校で上手くやれてるかな」
「クラスメイトは良い奴ばかりです。
少なくとも陰口叩くとか
単体で呼び出ししたりとか
俺への当てつけは聞いたりしますけど。
俺が見る限り、
ユウは自然に笑えていると思います」
「そうか…。
それを聞いて安心したよ。
君も大変だね」
「まあ目立つ奴ほど
攻撃対象になりやすいですからね」
俺が知っている限り、
ユウは高校生活で支障なくやれてると思う。
一度も学校を休んだりしてないし、
嘆いていた英語も
読み書きが出来るように
テストにもその成果が表れている。
それ以外の不調は特にみられなかった。