第19章 戻りたい
一人書けばまた一人と寄ってきて、
いつの間にか
俺の机の前は大行列。
まるでサイン会。
ほかのクラスの連中もやって来たものだから
ここぞとばかりタケは仕切って
スタッフのような働きをしている。
「牛垣くんのサインってかわいい~!」
「一目みたとき俺のだ、
って分かるのにしたくてさ。
はいどーぞ」
「きゃ~!ありがと~っ」
俺の直筆サインは
「牛」のイラストを一筆書きして
繋がるように秋彦の「彦」と書き、
牛の顔のところに
アキの「A」をとって
アルファベットを組み合わせたもの。
日付も書き終わったら
にこっと目をみて笑いかけて雑誌を返す。
それだけで女も男も顔を赤くする。
「あ、もうチャイム…。
こっから後ろの人ゴメンっ!
昼休みも書いて欲しい人いたら
遠慮なく言ってくれ。
また並んじゃうことになるけど御免な」
「うんっ!絶対並ぶ~」
「明日もサイン会やってる?!」
「いつでも歓迎する」
友達を大切に。
ファンを大切に。
クラスメイトを大切に。
外面だけは良い自信があるから
適度にフレンドリーに接して、
チャイムの音とともに
お行儀よく去っていく生徒たちを見届けた。