第19章 戻りたい
スカウトで専属事務所と無事契約。
当然、契約金とか
モデルや俳優に必要なノウハウを学ぶための
レッスン料や稽古代が掛かると思ったが
年数契約という形で免除されることになった。
俺にはコンテストや
グランプリで入賞したわけではないから
人脈もコネもない。
おまけに街で声を掛けられただけで
オーディションに応募したわけではないから
業界では全くの無名。
(俺の実力でどこまで伸し上がれるか…)
専属モデルの津梅剣のようになりたい。
調べて分かったことだが
津梅はモデル以外にも
数多くのドラマや映画にも出演していた。
今現在も連ドラの収録をしているとのこと。
近くて遠いような目標…。
「高校生16歳、若いわね~!
お肌も目も歯も白くて綺麗で
吸い込まれちゃいそう!」
「…ありがとうございます」
「黒髪も張りがあっていいわね~!
すぐオファー来るわよ、
ゼッタイ!」
「…ありがとうございます」
…ダメだな。
思った以上に緊張してやがる。
会話で和ませようとしてくれるが
慣れない環境のせいで
いつもより血流のスピードが速い気がする。
「これでよしっ!
ヘアセット終わりました~っ」
「それでは撮影入りま~す」
あのとき見たのとは違って、
光の視野が狭く尖ったものに感じる。
白い背景…
強い照明…
あそこに踏み入れたら、
俺の人生変わるんじゃないかって。