第16章 清算
本命ができた、と口にすると
千恵美は驚いた顔のまま固まる。
「そ…そう…。
しばらく見ないうちに顔つき
変わったと思ったら…そういう事だったのね。
ユウさんにはもう話したの?」
「まだだ」
「あら珍し。
じゃあ今、私に告白したのが初めて?」
「…そう、なるな」
相手が湊…、
男ということもあって
ユウにはまだ伝えられていない。
「その人とお幸せに…
って言いたいところだけど、
感傷的になって
本命と思い込んでるだけなのかも」
ただの妬みなのかもしれない。
別れて、すぐ相手を作った俺に対しての。
そんな言われ方をして腹が立つ。
「俺はアイツが好きだ」
湊を想う感情は幻影なんかじゃない。
裏切られて傷付いて
勘違いしてるわけじゃない。
湊を想うだけで、
胸がこんなにアイツのことで溢れるのだから。
「ご…ごめんなさい。
彼女を悪くいったつもりはないわ。
ごめんなさい…」
「俺も感情的になってた。
すまん」
「私も…そうね。
早くいい人見つけて再婚して、
自分の人生見つけて楽しく生きることにするわ。
最後にちゃんと武明と話せて良かった。
佑都のことは私に任せて」
「ああ。頼んだぞ」
二度と逢わないが
お互い「さよなら」という言葉は口に出さず
夫婦としての最後1ページを綴ったのであった。