第16章 清算

千恵美は
ぽつりぽつりと男のことを口にし…



一度だけ関係を持った男友達、
ということらしい。





「私は、武明と付き合った時から
複数いる中の二番目の女で…
選ばれただけでも奇跡的に嬉しくて、
それだけでいいと思って武明の彼女になった。

武明は、それ以外の女の人にも
大学の中じゃ平等に接してくれた。

連絡はまちまちだけど…
時間が経っても必ず返してくれるし、
誕生日だけは前週に連絡をくれて
約束した日に一緒にお祝いしてくれた。

…二番目の女でも、
ちゃんとお祝いしてくれて
甘やかしてくれて、すごく幸せだった。

みんな武明を見ていて
いつも周りに人が集まっていて、
私は顔がドタイプで好きになったけど
それ以上に貴方は手に届かないほど
魅力的な人だった。

基本的にはクールで落ち着きがあるけど、
ボール持ったら途端に少年っぽくなるし
子供好きのギャップに
ますます惚れてしまった。

もっと誕生日だけじゃなくて
武明の優しさを独り占めしたくて、

もっとずっと一緒にいたくて

もっと私だけに微笑んで欲しくて…。

その欲が…
結果的に嘘をつくことになってしまった。

武明の子じゃないと半信半疑で嘘ついて…
顔色を窺うように疑ってくるけど、
顔みるたびに妊娠した体を
すごく気にしてくれた優しさ。

こんなに特別に優しくされて
本当は武明の子なんじゃないかって
都合よく、
錯覚を起こすようになってしまった。

でもこれは武明のセイじゃない。

全部、私の幼稚な心の問題だから…

嘘ついてるって自覚は、
あの日の結果を見て
夢から醒めた夢のように思えてしまったの」