第16章 清算
展望台に到着し、
携帯に触れるが足は自然に流れるように
あの日立ち止まった場所に歩みを進めていく。
「…」
遠くからでも後ろ姿だけで見て分かる
千恵美がそこに立っていて
ロング丈のギャザースカートが揺れていた。
「…武明…」
俺が声を掛ける手前で千恵美は振り向き、
気丈を保った顔をしている。
「待ったか?」
「ううん。遠くなのに…わざわざありがとね」
「こっちこそ…来てくれてありがとな」
柵の向こうから景色が一望できる場所で
横に並び、
あの日と同じくらいの時間帯の風が吹く。
「…テーブルの上にあった離婚届、
今日、市役所に提出してきた」
「…そう」
「…そっちはどうだ?
佑都の幼稚園とか…
養育費のこととか…」
すべては佑都に結び付く。
佑都は俺の子じゃない。
未練はないが、
家族だったことには間違いない。
生まれた子供に恨みなんてなくて、
頭に残るのは
懐いてきた面影ばかりだった。