第16章 清算
湊は会社を辞めるが、
俺と一緒にいてくれるってのは分かった。
暗くて見えないから良いだろうと
控えめに、湊の指に指を絡めて握りしめる。
「…それで湊。
次の仕事は決まったのか?」
「はい。在宅翻訳の仕事なんですけど、
営業部にいた頃にお世話になった人とか
求人でもいくつかアプローチをかけてて
話もうまく進んでいるんです。
うちの会社、給与や手当などしっかりなので
翻訳の収入は不安定で
ガクッと減ってしまいますけど…」
「収入面は俺がいるから良いだろ。
一人二人いたって余裕で養える。
同棲するんだろうし
結婚したのも同然だろ?」
「うっ…」
「ん?」
はじめて湊の尻に
指を食い込ませたときと似た反応。
「俺…、悪いこといったか?」
「そ…いうわけでは…。
あの、今日…指輪…」
「あぁ…、家に帰ったら嫁の指輪があってな。
カモフラージュのためにずっと付けてたんだが
もう必要ないと思って。
今度一緒に買いに行こう。
指輪つけてないと
やたら絡まれるの、分かるだろ?」
既婚者でも女から狙われる。
嫁を褒めても、
息子を自慢したって女から狙われる。
それがバツイチ独身と知ったらどうなるのか。
嫌煙されるのか、
それとも女同士の醜い争いがはじまるのか。
余計な詮索をされないためには、
目に見えるカタチが必要なのだ。
それに…
好きになった相手と
同じものを
常に身に付けておきたいと思うのは当然だろう。