第16章 清算
呼び出したいが、
ほとんど個人的な感情だ。
どうして教えてくれなかったのだと。
今月まで残り2日。
湊は俺たちに心配かけたくないと
課長に口止めをお願いしていた。
ただでさえ生きづらい世の中。
新しい職場を探すのさえ容易ではない。
自分一人の足で立ちたいというのは
俺と恋人同士になって
贔屓に思ったのかもしれない。
もっと自分に合った仕事というのは
湊はもともと海外営業部だった。
つまり海外に興味があり、
語学を活かした仕事がやりたいということ。
(俺は何もしてやれないのか…)
何もできない自分が情けない。
悔しい。
好きな奴なら何だってしてやりたいのに。
デスクの上でぐっと握りこぶしを握り、
姿勢を正して働く湊を視界におさめる。
(ああくそ。落ち着け。
…こんな時だからこそ、仕事に集中しろ)
もう一緒に働けない。
一緒にランチにも行けない。
ふと目をあげたら湊じゃない奴が座っている。
仕事が終わったら湊の奴を問いつめよう。
きっと話してくれる。
気合いを入れなおして、
今やるべきことを進めたのであった。