第15章 帰る家
一番近くの席で
真面目な横顔で働く湊の姿。
(寝癖の頃が懐かしいな…)
最初来たときはめっぽう暗くて、
踏み入られたくない壁を確立したような距離感。
俺は部下を想う以上に、
あの頃から湊のことが気になっていたから
ズカズカと大層迷惑なことを
してきたのだと振り返る。
(…かわいい)
バレないように視線を送る。
ニヤつきそうな口元を抑える。
一緒になれたことが嬉しいと思う。
(こんな浮ついた気持ちじゃ、
会社でキス、シたくなるのも分かるな…)
近くにいたら触れたいと思ってしまう。
いま何考えてんのかなって
しゃべり掛けたくなってしまう。
俺にはまだ、
湊の知らないことがたくさんある。
もっと知りたい。
湊のこと。
人を好きになるという本当の意味を知って、
…ふと
違和感なく付けっ放しだった
結婚指輪に目が止まる。
…あいつも、
こんな気持ちだったのだろうか、と。