第11章 男の身体 *
受話器に耳を抑えながら、
出るな…
出ないでくれ…
と願う自分とそうではない自分。
「!?」
『……はい。牛垣、主任…?
どうか、しましたか…?』
無言電話で受話器の向こう側は窺っている。
…湊の声。
しばらく振りに聞いた気がして、
訳の分からない感情が込み上げてくる。
「…頼むから何も聞くな。
●●駅近くにあるケレール・ホテル
そこの61号室で待ってる…」
『えっ?…──』
来いとも、来なくても良いとも伝えず、
待っているとだけ伝えて一方的に電話を切る。
ちゃんと聞こえてなかったのならそれまで。
上司命令だと思って湊は忠義を見せるだろうか。
ホテルといったから理解はしたはず。
必要以上に言わなくたって
湊なら理解できるはずだ。
「サイテーだな…俺…」
排泄だけのために女と付き合っていたように、
都合のいい部下にも
そんな仕打ちをしようとしている。
頭では理解していても、
誰かのぬくもりを感じたくて…
願わくば、湊の心を試したかった。