第9章 濁音 *
ユウの痕跡までたどっていた嫌悪感。
家庭や家族まで手が及んでいたら…
「答えなくないですか?
まあ湊のことなんてどうでもいいですけど。
お薬飲んでくれなかったので
今度はお注射です。
危ないので暴れないでくださいね?」
「!?触るなっ、やめろ!!」
本当に注射器を出されるとは思わず、
緊張が走る。
ケースの中から小さな注射を取り出すと
頬を地面に押し付けられた。
「離せッ!!」
腕は縛られていて動かせない。
上腕の筋肉を摘ままれ、
鋭利な針先をみて身が震えあがる。
「やめッ…っ」
チクっと皮膚に刺さった痛み。
後ろ側で見えないが冷たいものを感じる。
ものの数秒で投与され、
針が抜かれた。
「注射は即効性もあるんだとか。
…どうです?
身体に異変は感じませんか?」
口に残っている甘ったるい風味。
舌が痺れたように熱くなってきて、
それは身体全体にも
広がっていくような感覚。
「っ…」
「効果は、十分のようですね」
長瀬が背筋をなぞってきた。
これまでにないほど背筋に電流が走り、
長瀬は嘲笑うように息を吐き出した。