第9章 濁音 *
甘い香り。
吐き出さないように口を押えられ、
喉奥に流し込もうとしてくる。
「飲むのが嫌なら
注射もありますからね。
湊のために正義感振りかざして
俺に会いに来てくれるんじゃないかって
前々から入念に準備していたんです」
「…ッ」
「匂いだけでも強力でしょ?
経口摂取より
注射のが強力だって知ってますよね?
吐き出したいならどうぞ?
お注射、刺してあげますから」
「…はぁッ、そんなの脅しに乗るか。
飲むわけねえだろ」
手が離れた瞬間、
飲み込みそうになった液体を床に吐き捨てる。
口の中が妙に甘ったるく、
妙に鼻につく匂い。
舌がジンジン痺れているようだ。
「いいですね~、その屈しない感じ。
女の前ではクール気取りなのに
気を許した男友達の前では無邪気に笑う。
居ますよね?
高校時代から仲良くされているお友達」
「!?」
「SNS見ましたよー。
ヘアカタログも見ました。
今まで美容室を社員に紹介しても
一度も一緒に撮ったことないのに
湊と仲良く撮ってましたね?
あれはどうしてですか?」