第8章 白濁
タクシーは立派な
タワーマンションの前に止まり、
俺を押し切って料金精算を済ます長瀬。
「エントランスで待たせるのも心持たないので、
一緒に来てください」
「構わない。俺はここで待つが」
「せっかく俺の家まで来たので。
牛垣さんに自慢でお見せたいものもあるんです。
お時間は取らせませんから。ね?」
「……なら嫁に連絡してもいいか?
帰りが遅くなると心配するから」
「ええ。どうぞ」
高級レストランで携帯に触るのはマナーが悪い。
タクシーの中でも長瀬が話し掛けてきて、
触っている暇がなかった。
俺は、少し距離をとったところで携帯を開く。
………
…
「待たせたな。
お坊ちゃんはなにが自慢なんだ?」
「お坊ちゃんなんて止してくださいよ。
部屋についてからのお楽しみですっ」
皮肉を言ってやると
長瀬はにこりと嬉しそうに笑う。
エレベーターに乗り込むと、
高層階にあたる行き先階ボタンを押した。