第8章 白濁
点々と光る街灯横切りながら、
レストランの堅苦しさが抜けたように
長瀬は饒舌にしゃべり掛けてきた。
「牛垣さんって、
ご結婚されて何年になるんですか?」
「6年になる」
「へえ!だとすると若いですね!
できちゃった婚って本当ですか?」
「反対派か?」
「いえ。さぞかしおモテになったのかと。
結婚になった決めてって何ですか?」
「ずいぶん聞いてくるな…」
「遠慮なくってすみません。
俺、湊は抱けたんですけど
基本ノーマルというか。
俺ももう結婚を考えなきゃいけない歳ですし、
今後の参考までに、って思ったんですけど」
「結婚の決め手か…」
あの時、堕ろすこともできた。
自分の子供じゃないと疑って
病院へも付き添った。
そこでお腹にうつるエコーを見たとき、
小さな影が動いたのだ。
人とはとても呼べない影。
用心深く予防していたのに紡がれてしまった命。
その小さな影をみて
このまま無責任に殺してしまっていいのかと
得体の知れない罪悪感に苛まれ悩んだ。