第8章 白濁
長瀬が手配したのは
高級イタリアンレストラン。
普段からスーツや装飾品をこだわっているが、
会社のスーツで行くわけにも行かず、
急きょドレスコードを合わせた。
(ボンボンが…)
電話越しでの爽やかでハキハキした声。
ドレスコードなしと書かれてあったが、
嘗められるのもカンに障る。
胸のうちで悪態を吐き、
先に来ていた長瀬はニコッと笑みを立てた。
「はじめまして、ですよね。
父から話は伺っています。
緊張しちゃうなあ」
「よく予約が取れましたな。
予約が取りづらいお店と聞いておりましたが」
「父の知り合いが働いていて、
たまたま空いてると優遇してもらったんです。
…あと、
俺の方が年下で平社員ですし、
普通に接してくれると嬉しいです」
「なら、お言葉に甘えて」
副社長の息子だから気を遣っていたが
部下と話すような口調に切り替える。
食前酒を飲み、
メニューを熟読して食事を注文した。