第1章 落ちて
レストランから、ひとりの男が出てきた。
私は光に照らされた男の影をぼんやり眺めた。
全身の力が衰退し、横になったまま動けなかった。
足の痛みももう感じない。
ただ、鋭く落ちる雨に打たれている感覚だけがあった。
「何をしているんだい?」
店から出てきた男に声をかけられた。
何をしているのかは、私にも分からない。
「死にたいの」
口から零れた言葉は、私の頭を埋めつくしていた言葉だった。
「理由はわからないが、とにかく家に帰るんだ。
いつまでもそうしていると、死ぬより酷いことになる」
彼は持っていた傘を私の上に翳して、私の肩を抱いた。
私も起き上がりたかったが、足を動かすと酷い痛みを思い出す。
「立てないのか?足を怪我しているじゃないか」
傘を置いて、私の腕を引き自分の胸元に私を引き寄せる。
そしてまた傘をさしながら、今度は優しく背を撫でてくれた。
打たれた右足を引きずって何とか自立すると、彼は優しい目で私を見つめる。
「家に帰ろう。送っていくよ」
私の家はどこ?
兄さんの家の鍵は私は持っていない。
あそこは私の家じゃないもの。
「家が無いの。家族も・・・みんな殺された」
また泣いてしまう。