第4章 揺らして
エレベーターの独特の浮遊感は、やっぱり気持ちが悪かった。
ドアを出た途端、足元がぐらりと歪む。
それを支えるのは、フーゴのやさしい手。
前に飲んだ時も、介抱してもらったっけ。
ぼんやり考えながらフーゴの胸板に頬を寄せる。
(今、私は酔ってるの。酔ってるから、許されるよね)
意識があることを気付かれないように、いつもより少し大胆に触れる。
「ナマエ、飲みすぎは体に良くないですよ」
返事したつもりだったけれど、返せていなかったらしい。自分の部屋の前まで送ってくれると、腰にあったフーゴの手が離れていった。
温もりが無くなって、それはサヨナラのときを意味する。
「おやすみなさい」
「・・・・・おやすみなさい」
キーを開けて、部屋に入る。
コツコツ鳴り響くフーゴの足音を、隙間から見つめていた。
その日はお風呂にも入らず、死んだみたいにベッドに沈んだ。
意識を手放す寸前まで、私の腰にあった温もりは消えなかった。