第2章 ようこそ
見慣れたこの家。
そう、私の家族が暮らしていた、いわば隠れ家だ。
中に入るのに勇気がいるから、ドアの前で大きく深呼吸する。
「緊張しますか?」
隣でフーゴが心配そうな顔をして尋ねた。
「うん・・・ちょっとだけ」
ゆっくりドアを開けて、懐かしい空気を感じる。
中は普通の一軒家とは変わりない。
フーゴは辺りをキョロキョロして周囲を確認している。
私はもう書斎だけを確認して、すぐに帰りたかった。
「多分資料は奥の部屋にあると思うからそっちに向かおう」
フーゴはきっと色々確認したいだろうけど、申し訳ない。私はもうここにはいたくなかった。
フーゴと一緒に書斎に入って、棚の中を捜しまわる。
ファイルに挟まった書類や怪しい薬がわんさか出てきて、正直目を瞑りたかった。
「私の親がこんなことをしていたなんて信じたくないな・・・」
思っていたことが口に出てしまい、口を抑える。
「・・・・・・」
気を使ってくれたのか、返事はない。
この薬でどれだけの人が苦しみ、どれだけの人が涙を流したか。考えたくなくても考えてしまう。
つらい。
1人でぐるぐる嫌なことを考え込んで、私は机の下の棚を探している振りをして涙を堪えた。
でも。泣いたらきっとまたフーゴに気を使わせてしまう。
だめだ。
そそくさと部屋を探し回って、最後にリビングを見ることになった。
そこだけ見ると綺麗な食卓と大きなテレビがあって。抜け殻になってしまったリビングで、幼い私は明るく楽しく育てられていた。
昔を思い出してまた鼻の奥がツンとした。
カバンは薬でいっぱいなのに、ホコリの被った机を見て懐かしさから泣きそうになる。
「ここはもう無いですね。」
フーゴに声をかけられてハッとする。
だめだ。ここにこれ以上いたら辛いだけだ。
フーゴのいる方に振り向いた時、テレビの横に飾られたある写真が目に入った。