第1章 必然
呼ばれてやってきた吉法師は、着物を気崩し
武士の子とは思えない。とても 城主である 父に会う服装ではないが、信秀は一つため息をついただけだった。
「親父殿、お呼びと言われて参ったのですが」
「吉法師、今日から この娘はお前の妹だ。
葵 という。葵、お前の兄上だ。
吉法師、葵は お前に任せる。仲良くやれ、吉法師頼んだぞ」
「は?」
そう言うと、葵を下ろし 信秀は去っていく。
残された吉法師は、幼い子供を前に頭を抱えた。妹?葵という妹がいたなど 聞いたことがない。流石の吉法師も 父が何を考えているのか分からなかった。
「養女になさるそうです。 実は殿と城へ帰る途中…」
平手政秀が、流石に情報が少ないと 成り行きを説明する。
それを聞いた吉法師は、葵の前に屈み 口角を上げ笑った
「俺は、吉法師という。今日からお前の兄だ、よいな?」
「あにって、おにいちゃんのこと?」
「そうだ。兄上でも、お兄さまでも まぁ、好きなように呼ぶといい。」
自分の部屋のある館に連れ帰り まずは 着るもの、それから部屋を 用意させなくては。 信秀の娘、つまり姫 として育てるからにはある程度の教育も必要になる。これから忙しくなるぞ、と 自分に喝を入れた。
城へ来た当初、起きては
「おかあさんっ!おかあさんどこ…?」と泣いていた葵は 一月たった頃にはそんなこともなくなり、すっかり吉法師に懐いていた。
自分の部屋で眠っても、明け方になると吉法師の布団に潜り込んでくる。 幼い子供が親に捨てられたのだ、今はまだ仕方ないだろう。