第3章 歯車
政宗達が帰還する数刻前、安土城。
信長は、光秀、三成と共に帰還していた。
城門に着くなり、城から飛び出してきた葵が
馬を降りた信長に抱きつく。
そして、縋り付くように泣いた。安堵したのだろう 。声を殺していたが嗚咽を止めることも、震えを止めることも ましてや、周りを気にすることなんて出来なかった。
「お、おに、さまぁ、ご無事で…お怪我は?
な、い?」
必死に怪我はないか、と問う姿は 幼子のようだ。
「心配かけたか…。大事無い。それよりも、顔色が悪いぞ。しばし眠れ」
いやいや と首を振る葵に困ったような顔をした信長は、横抱きにして城へと歩き出す。
天主へ入り、落ちついた葵は 恥ずかしそうに
笑う。
「兄上様がご無事で何よりでした」
「ふっ、俺が死ぬわけがない。」
「そうですね。光秀、兄上様の元に駆け参じてくれたこと…感謝します。他のものにも礼を言わねば。」
「俺が行った頃には、本能寺より御館様は脱出してましたよ。ある女が助けたそうで。」
光秀は、ふっと口角を上げた。
「…その女、本当に大丈夫なの?」
眉間にシワを寄せて光秀に聞く。
「さぁ?調べてみないことには…」
「あの女が俺を救ったのは事実。もし、今後命を狙うのであれば斬り捨てるまでだ。」
信長の瞳が鋭く光る。
葵は、その声を信長の胸に耳を当てながら聞いていた。兄のくぐもった声、心臓の音…。
(大丈夫、生きている。お兄さまは、葵の側にいてくれる)
静かに目を閉じ、深い眠りに吸い込まれて行った。