第3章 歯車
「あ、兄上様の安否は分からぬと?な、なぜ?」
動揺する葵を 周りの女中が宥める。
そこに、バンっと襖を開け 家康が入ってきた。
「葵!」
「家康、兄上様は…」
「まだ、分からない。分からないけど、しっかりして あの人はそう簡単に死なない。葵だって知ってるでしょ」
こくんと頷く葵をみて、苦虫を噛み潰したような気分がした。正直、生きていたらとんでもない強運の持ち主だと思う。何しろ、あまりに少ない兵で本能寺へ向かったのだから。
秀吉も、光秀も同行していない。状況は悪かった。けれど…この姫に、今倒れられたら困るのだ。気をしっかり持って指示してもらわなくてはならない。主不在の今、城の者に指示を出せるのはこの姫だけだ。
「女中頭を呼びなさい、念の為 男衆は 火薬などがどれほどあるか…確認を。早馬を走らせてきた者は休ませて、よいな」
顔色が悪い。けれど、しっかりとした指示を出す葵を見て 少しほっとする。
「それから、包帯や薬の準備を……」
「俺も手伝うよ」
振り返った葵は、今にも倒れそうだと思った。けれど、気丈に振る舞う姿に 皆は頼もしく感じ 動き出す。