第2章 たった二人の兄妹
久しぶりに信長の馬に揺られ 寺を目指す。
いつもと違い、とても静かな葵。
信長も何も発さず 二人の間には沈黙があった。
「おい、光秀。」
「なんだ」
並走する光秀に秀吉は、小声で話しかける。
「毎年、この日は藤の方様の 命日だから…と寺へ行くが…藤の方様という方はお二人とはどのような関係なんだ」
「……母君だ。」
「母君?」
「義理のな」
「あぁ…」
葵は、藤の方を実の母だと思っているのだろう。何しろ 連れてこられたばかりの幼い頃の記憶は 忘れてしまっているのだから。
「着いたぞ」
信長は、葵を抱き下ろすと 手を引いて墓へと歩く。葵は、とぼとぼ と俯きながら 母の好きだった白百合と藤の花を抱え ついて行く。
墓に跪き、花を飾り 手を合わせる。
線香の匂いが 懐かしくもあり、やっぱり寂しかった。この煙にのって 母へと思いが届くように 必死に手を合わせ、微動打にしない。
顔をあげると葵は微かに微笑んだ。
「母上。葵は いまだに兄上離れが出来ませぬ。……母上のような 、母上が望んだような立派な姫になれているのでしょうか。」
それを聞いていた信長は、ふっと顔を緩ませて 墓を見つめる。目礼すると、葵の頭に手を乗せ「帰るぞ」と言った。
城へ着き、自室へ続く廊下を歩いていると
向こうから 家康と政宗がやってくる。
「おっ、帰ってきたのか。」
「……おかえり」
葵は微笑んで「ただいま帰りました」と返す。