第2章 たった二人の兄妹
信長に抱きかかえられて広間に入ってきた葵に、皆 驚いたように目を見開く。光秀は、眉を上げただけで 特別驚いた様子はない。やれやれ、といった様子である。
信長が席に付き食べ始めれば、皆も箸を取り食べ始める。その間も 信長の膝を降りず、
皆に顔を見せない葵を 誰もが気にしながらも声をかけることが躊躇われ、声をかける者はいない。
時折、信長が葵の口に箸を運ぶ。
政宗のご飯は美味しい。さっきまで顔を見せなかった葵は 幸せそうに微笑む。
「葵、軍議が終わるまで 大人しくしておれ。終わり次第、藤の方の墓参りにいこう」
葵は 、兄に顔を向けず頷くと再び顔を信長の胸元にうずめてしまう。それを信長は、しばし 困ったように見つめると 静かに背を叩き宥めてやることにした。
葵が下がり軍議が始まる。
「朝廷から このような打診が…」
「御館様、先日話しておられた堺の南蛮商人でございますが…」
話はどんどん進んでいく。
信長は、それに次々と的確な指示を出していく。
「他に 報告はあるか。……なければ、本日の軍議はここまでとする。各々、仕事に励め」
「はっ」
「秀吉、光秀、寺にいく。支度しろ」
「かしこまりました」
「はっ、失礼致します」
信長は、去り際 側近に一言だけ告げて去っていく。その様子を見ていた政宗は、家康に聞いた。
「藤の方ってのは だれだ?」
「さぁ。名前だけなら聞いたことありますけど 会ったことないんで。」
「ふーん。」
葵の様子は 明らかに変だったが、信長にも違和感を覚えた。政宗の勘だが、きっと 二人にとって大切な人物だったのではないだろうか。