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刹那

第2章 たった二人の兄妹


近々、城の近くの空き地に 家康と政宗の御殿も建てられることになった。その間、二人は城に滞在するらしい。部屋は離れているから、なかなか会うことはないのだが 二人が来てから食事は広間で食べることになった。
皆で食事をするのは 楽しい。けれど、兄と二人の時間が更に減ったことが 葵は寂しかった。

いつも通り兄の部屋にやってきた葵は、少し考えるような仕草をしたあと 布団に潜り込んだ。兄にピタッとくっついて、額をぐりぐり と信長の胸元に押し付ける。
「…どうした」
兄は大抵起きている。起こしに来る必要は本当はないのだ。
「お兄さま、おはようございます。朝餉を食べにいきましょ」
信長の胸元に顔をうずめたまま、顔をあげずに喋ったせいでくぐもった声になる。
(まだ、童だな…)
信長は、葵の頭を撫でてやる。
「御館様、おはようございます。朝餉の支度ができました。皆、広間に集まっております」
「左様か、入れ」
「失礼致します」
入ってきた秀吉は、ギョッとする。
昨夜は、女を召しておられたのか。声をかけるべきではなかっただろうか。
秀吉から見ると、女の後頭部と艶やかな黒髪しか見えない。
信長は、葵を抱えたまま起き上がり 布団を蹴飛ばす。
「姫様!?」
開いた口が塞がらないとはこのことか。秀吉もさすがに葵が布団に潜り込むなんて考えていなかった。
「葵、朝餉だ。広間へ行くぞ」
信長は、声をかけても離れる様子のない葵を抱き上げて 広間へと続く廊下を進む。
「あっ!御館様、お待ちください」
その後を、我に返った秀吉が慌てて追った。
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