第2章 たった二人の兄妹
家康が席を立ち、上座へやってくる。それに続くようにやってきた政宗も 隣に腰を下ろした。
「信長様、お久しぶりです。次の宴は、俺に何か作らせてくれませんか。」
「政宗か…。よいだろう、好きにしろ」
「ありがとうございます」
「信長様、葵姫、お招きありがとうございます。」
爽やかに挨拶した政宗と対照的にむすっとした態度で 一言だけ告げる家康に、 葵は首を傾げる。
「竹千代様…?」
「その呼び方やめてくれない」
「くくっ、竹千代。貴様、久しぶりにあった葵にそれか。先が思いやられるな」
「は?あんたまでその呼び方やめてくださいって散々いいましたよね」
家康が明らかに不機嫌そうに顔を顰める。
それを見ていた 秀吉は、慌てて注意する。
「こらっ!家康やめろっ、御館様に失礼だろう。」
「よい」
楽しげに声を抑えて笑う兄を見て、葵も頬を緩める。
「竹千代様…いえ、家康様。お久しゅうございます。葵姫など…よそよそしい呼び方はおやめくださいな。」
「へぇ、お前ら知り合いだったのか?
あぁ、失礼。妹君、お初にお目にかかる。
政宗だ。政宗でいい。」
「えぇ、幼馴染のようなものです。
ご丁寧にありがとうございます、葵と申します。では 私のことも葵と。」
面白そうに、家康と葵をみた政宗は ふっと微笑んだ。それに葵も微笑み返し、改めて名乗った。
「葵、その人には気をつけなよ。」
「はぁ」
家康の忠告に 曖昧な返事を返すと、眉間の皺をより深くする。自分の知っている家康の態度と違うことに、未だに慣れない葵は 困ったように微笑む。そんな妹を見た信長も
「天邪鬼には 困ったものだな」
と苦笑した。