第2章 たった二人の兄妹
「姫様、お支度整いましたでしょうか?
宴に参れ、との御館様の命にございます」
襖の向こうから聞こえる小姓の声に
最後の仕上げに 紅をひいた葵が答える
「今 参る。しばし そこで待ちなさい」
「はっ」
立ち上がり、女中に全身を確認してもらう。
「よいか」
「はい、よろしいかと。いってらっしゃいませ」
「えぇ」
小姓の後に続き、広間へと続く廊下を衣擦れの音と共に進む。 だんだん大きくなるざわめきに、気を引き締める。
襖の前に立つと、息を深く吸い、吐く。前を見すえ、控える小姓に頷きかける。
「葵姫様、参られました」
広間に葵が足を踏み入れると、あちらこちらから息を呑む音が聞こえる。 静まり返った広間に 衣擦れ音と 簪の飾りが揺れる。
信長の隣に腰を下ろすと、三つ指をつき 頭をさげる。信長は、それを満足気に眺め 声を張った。
「皆に紹介しよう。我が妹姫の葵だ。」
「皆様、お初にお目にかかります。ただいま紹介に預かりました、織田信長が妹 織田 葵と申します。遠路はるばる 安土城まで足を運んで下さり、誠に有難く思います。今日は 心ゆくまで 楽しんで行ってくださいませ」
そう言って顔をあげると微笑んでみせる。
わっと一際大きな ざわめきが生まれ、また宴が始まった。