第2章 たった二人の兄妹
葵は、客人が来る時の支度が苦手だった。
着飾るのも、どんな着物を着ようかと考えるのも楽しい。けれど、やたらと時間がかかる。その間、自分は人形のように じっとしていなくてはいけない。書物を読むわけでも、
何かを書くわけでも無い。ただじっと されるがままに長時間じっとしている事が苦手であった。
「姫様、紅はどれにいたしますか」
「先日 お兄さまが京からのお土産にくださったものがあったでしょう?あれがいいわ」
「かしこまりました」
「姫様 簪ですが、このお着物ですと これか こちら が良いかと…」
「あぁ、そうね。なら……」
けれど これも兄の隣に並ぶためには必要なこと。私の義務だ、と心を奮い立たす。
「御館様、徳川家康殿 伊達政宗殿 御到着いたしました。」
「政宗も参ったのか」
「はっ、途中で合流したそうで。前もって伝えられなかったことを 謝っておいででした。」
「左様か、よい。さがれ」
「はっ、失礼いたします」
(ふん、政宗もきたか…面白い)
同盟国の主である伊達政宗。この男に葵はまだ会ったことがない。あの男がやってくるとは知らない葵は、どんな反応をするだろうか。破天荒なあの男に、葵はどんな印象を抱くのだろう。妹の反応が今から楽しみでしょうが無い。今日の宴は 大いに楽しめそうだ、と信長は口角を上げて笑った。