第2章 たった二人の兄妹
城へ戻れば、女中や小姓、下女、下男が慌ただしく動きまわっていた。 そのうちの一人、葵付きの女中が
「姫様!お探し致しましたよ、さぁ お支度を。」
と駆け寄ってきた。
「来るのは竹千代様でしょう。いつも通りでいいわ」
「そうはいきませぬ!今や、一国の主となられたお方ですよ、しかも 盟約を結びに参るのです。正装でお迎えいたしましょう」
そう意気込む 女中に諦めたように首を振ると
兄を見上げる。
「あぁ、そうだったわね…。お兄さま、葵は支度をして参ります。宴の席でお会いしましょう。謁見 頑張ってくださいませ」
「着飾って参れ」
信長に返事をする代わりに微笑み、女中を連れて部屋に下がる妹を見送る。
「秀吉、家康を出迎えよ。光秀はついて参れ」
「はっ」
「承知」
そう命じた時には すでに兄の顔ではなく 、
魔王と恐れられる上に立つ者のそれであった。