第2章 たった二人の兄妹
「本当に仲のよろしいご兄妹だ。」
「そうだな…。実のご兄妹でないのが不思議なくらいだ」
「え、実のご兄妹じゃないのか」
光秀の何気ない返しに、秀吉が驚く。
「なんだ、知らないのか。葵様は、先代当主が連れてきた養女らしい。御本人は幼くて、連れてこられた当初の記憶が無い。だから、信長様が実の兄では無いことをご存知ない、とか。」
「……それは本当の話か」
眉間に皺を寄せて尋ねる秀吉に、肩を竦めて見せる。
「さぁな、だが 昔からの重臣とお二人を幼い頃から世話していた女中の話だ。大方、事実だろうな」
「そうは見えないのになぁ」
その話を知らない者は、二人が実の兄妹であることを疑いもしないだろう。葵の高く結った艶やかな黒髪が風になびく。
整った顔立ちに艶やかな黒髪、瞳の色は 赤と銀鼠色と異なるがこの時代、側室を多く娶ることだって珍しくない。よって、必ずしも 子が似ているとは限らない。
身内に裏切り、裏切られる世だ。幼い頃からずっと側で育ち 支え合ってきた二人は、血の繋がりなんかよりも ずっと確かな兄妹だろう、と 兄妹水入らずで 楽しげに談笑する二人を見ながら 秀吉は思った。