第10章 夏合宿後半戦
この前の合宿は音駒だったけど、森然は初めて。
バレー部のみんなは、1年生以外は毎年ここで合宿だから、教室や食堂の場所もある程度頭に入ってるみたいだけど。
私は初めてのせいで、なかなか迷うことが多い。
今だって、お風呂からの帰り道に第三体育館へ寄ったら、マネージャーの部屋への帰り方がわからなくなってしまった。
そして、たまたま通りかかったお風呂上がりの黒尾くんに助けてもらっている。
隣を歩けば、ふわりと香るシャンプーのにおい。
トサカじゃなくなった髪型は新鮮で、一瞬誰かわからなかった。
暗い廊下を、近い距離で歩く。
お互いにお風呂上がり。
別に大したシチュエーションじゃないけど、いつもと少し違う雰囲気に、ドキドキしてしまう。
「倉尾は、体育館で何してたんデスカ? 」
『えっ! あっ、』
ヨコシマな気持ちを見透かされたかのようなタイミングで話しかけられる。
『わすれもの、見に行ったの! ほら、練習切りあげる時に確認しなかったから、気になって! 』
本当のことなのに、ドキドキした気持ちが邪魔をして逆に嘘をついているような口調だ。
「ふーん。」
『うん...。』
「んで、そこ曲がると、マネージャーの部屋だよ。」
『え? 』
黒尾くんが指さした廊下。
顔を覗かせれば、奥に見える電気がついた教室。
そして微かにきこえる、みんなの笑い声。
『あっ、ありがと! 』
「おー。今度は道に迷わないようにな。」
マネージャーの部屋の前まで行かないのは、紳士的な黒尾君ゆえの対応だろうか。
引き返そうとする黒尾くんと、マネージャーの部屋へ向かおうとする私。
ドン、と、身体に固くあたたかい感触。
「...おいよいよい、大丈夫かよ。」
『え、』
黒尾くんとぶつかった。
そう頭で理解するのに数秒かかる。
黒尾くんの広い胸板に、吸い込まれるような。
もっと客観的にいえば、まるで抱きとめられたような。
そんな体勢になっていた。
え、なんでこうなったの?
上から降ってくる黒尾くんの声。
黒尾くんの手が、私を抱くこともできず行き場のない状態なのがわかった。
『ご、ごめん!! 』
慌てて胸板を掌で押すように、黒尾くんの身体と距離を取る。