第9章 テストは学生の宿命であり宿敵
「で、ここがこうなるから...」
『え、この式は使わないの? 』
「んー? いや、ここで使ってるよ。」
『え、どこ? これ? 』
「んーと...や、それじゃなくて...」
お互いに反対方向のノートとルーズリーフを、少し見にくいなと感じつつ見比べてると、
「ちょっと隣行くわ。」
『え!? 』
「逆さだとわかんねぇ。」
言うが早いか。
4人がけの席に向かいで座ってたのに、黒尾くんは私の隣の椅子に座る。
机1つ分あった距離が一気に縮まる。
「どの式? 」
『こ、これ...。』
「ここで使ってるだろ。あー...これ代入して変形してるから分かりにくいけど、ひとつひとつやると...」
身体が動く度に少しだけ香る、黒尾くんの匂い。
何の匂いと言われたらわかんない。
でも好きな匂い。
バレーをしている時とはまた少し違うけど、真剣な眼差し。
大きくてゴツゴツした、男の子の手。
試合中は主将らしくピンと背筋を伸ばしているけど、何かを書く時はほんの少し猫背になるのを、後ろの席の私はよく知っている。
「...聞いてますかァ? 」
『あ、きいてる!! 』
「じゃあ俺じゃなくて手元見てくださサーイ。」
ニヤニヤしながら私の顔を覗き込む黒尾くん。
『見てないよ! 自意識過剰〜』
いつものようにふざけたいけど。
あれ? こんなふうに言ってたっけ?
これで合ってる?
「イチャついてんじゃねぇ。」
ベチッ、と、トサカ頭に衝撃が一発。
後ろを振り返れば、丸めたノートを片手にしたやっくん。
「げっ、夜っ久ん...」
「“げっ”ってなんだよ。勉強しに来ただけだろ。」
『あ、前空いてるよ〜。』
私が2人に促せば、2人は「お邪魔しまーす」なんて畏まって前の席に座る。
私の前にやっくん、黒尾くんの前に海。
黒尾くんの荷物は、「邪魔」とやっくんに無慈悲に扱われていた。
「オマエら帰ったんじゃねーの...」
あれ、珍しい。
黒尾くんがそんなことを言うなんて。
3人セット、みたいな感じなのに。
「倉尾の心配しに来たんだよ。勉強進んでねーと悪いし、見張りに来た。」
『ご迷惑を...。』