第9章 テストは学生の宿命であり宿敵
放課後。
「倉尾、行くぞ。」
ホームルームを終え、クラスがザワザワとする。
さっさと帰る人、図書館に向かう人、教務室に用事がある人。
私は黒尾くんに声をかけられ、慌てて荷物をバッグに詰めて図書館へ。
スタスタと歩く黒尾くんに、慌ててついていく。
「...悪い。歩くの早かった? 」
『え、あ。』
どこか機嫌が悪そうだった黒尾くんから向けられた突然の優しさに、一瞬戸惑う。
『あ、ううん...えっと、足長いね...。』
「ぶはっ」
え、面白いこと言った?私。
黒尾くんは、クククッと喉を鳴らして笑う。
「早かったら早いって言っていーよ。そんな遠回しに言わなくても...ふはっ」
どうやら言い回しが黒尾くんの笑うポイントだったみたいだ。
『え、じゃあ、ちょっとはやい、カモ。』
「おう。悪かった。」
そう言って、黒尾くんは私と歩幅を合わせてくれる。
初めて話した時のように。
一緒に帰る帰り道のように。
朝学校に向かうように。
合宿で私を呼びに来てくれた時のように。
あれ?
そういえば、最近結構な時間を黒尾くんといるな。
部活の時間は勿論、登下校でも最後まで一緒だ。
休日も部活に大会に合宿だし。
「で? どこがわかんねーの? 」
今だって、図書館で2人。
『えっ、あ、えっと...。』
うちの学校の図書室は、ただの自習室だけじゃなくて話をしてもいい自習室もある。
教室は放課後に冷暖房を切られるから居心地悪いけど、ここだと夏は涼しくて冬は暖かい。
テスト期間は特に人気だ。
広い自習スペースに、私達以外にも既に7、8組来ている。
私も向かいの黒尾くんに促され、勉強道具を出す。
『あ、えっとじゃあ、今日の授業のトコ...』
私は数学のノートを開き、今日の授業中にわからなかったところを聞く。
数学は先生の言ってることが呪文のようだ。
『なんでこの式からこうなるかわかんなかった...。』
「んーー? ...あぁ、これは、まずそもそもxの範囲を求めたいから...」
黒尾くんはゴツゴツした手で、取り出したルーズリーフに計算式を書いていく。
下手じゃないけど、そんなに上手くもない字。