第7章 カレーに煮詰めた想い
午後の最初は、午前よりも音駒のメンバーの側にいれた。
いつもどおり記録して。
いつもどおりドリンクを渡して。
いつもどおり声をかけて。
胸の高鳴りを抑える。
うん。変わらない。
「あの、音駒のマネージャーの人。」
『はいっ』
後ろを振り向けば、梟谷のジャージ。
確か...
『赤葦くん? だっけ? 』
「はい。すみません、名前わからなくて...」
『あ、そうだよね。こちらこそ、ちゃんと自己紹介してなくてごめんね。』
倉尾舞衣です、と自分の名前を伝えれば、「覚えました。」って。
笑わないというか、動かない表情筋。
あ、研磨くんに似てる? かも?
いやでも、研磨くんは何考えてるか意外とわかりやすいからなぁ。
この子、全然わかんない。
でも、真面目で堅実っていうのは伝わってくる。
「次、ウチとですよね。」
『あ、うん。次は梟谷だね。』
「多分俺らの方が早く終わるんで、先にコートの用意しておきますね。」
『え、そんな! 選手は休んでよ! 私途中で抜けていくから! 梟谷、今かおりちゃんが買出し中でしょ? 雪絵ちゃん1人だと大変だし...。』
「大丈夫です。いつもやってることですし。それよりも、時間調整あとでお願いしてもいいですか? 」
『あ、うん...。』
淡々としてて、少し怖い。
音駒には、こういう雰囲気の人あんまりいないなぁ。
やっくんはすぐ怒るけど直上型だし、半分ノリみたいなとこもあるから。
こういう人は、怒らせたらヤバイヤツだ。
「音駒の試合は、例え練習試合でもなるべく見ていたいでしょう? 」
そう言って、音駒のコートに目を向ける赤葦くん。
その一言だけで、私の赤葦くんに対する気持ちが180度回転した。
そうか。
私が音駒を少しでも長く見れるように、少しでも長く記録をとれるように。
気を回してくれたのか。
前言撤回。
冷徹そうとか思ってごめん。
この子は確かに読めないけど、周りの空気をよく見ている。
多分良い子。
表情筋があまり動かないだけで。
『...うん! じゃあお言葉に甘えます! ありがとう赤葦くん! またあとで時間調整しよ! 』
「はい。また。」
赤葦くんの言葉と同時に、笛の音が響く。
どうやら梟谷と生川の試合が始まるらしい。
私と赤葦くんはぺこりと会釈をして、お互いに背を向けた。
