第6章 夏合宿やるってよ
「ったく...ワリ。3時からいないんだっけ? 」
『うん。で、その後に布団敷きにまわるから、もしかしたら夕ご飯まで戻らないかも。』
「おー。まじか。ありがとな。」
『全然〜。記録とかは芝山くんとか犬岡くんにお願いしておくから、備品のバックだけ黒尾くんに渡してもいい? 部室の鍵とか、貴重品も入ってるから。』
「りょーかい。」
『ありがとー! 』
必要事項を伝えたところで、潔ちゃんが私を呼ぶ声がする。
『あ、じゃあ私、ちょっとあっちに言ってくるね。』
「おう。あ、倉尾、」
『ん? 』
潔ちゃんの元へ向かおうと身体の向きを変えようとしたところを、手を掴まれて。
「色々ありがとな。夕飯楽しみにしてる。」
真っ直ぐ目を見つめて。
いつも遠くにある顔は少しだけ近くて、屈んでくれてたのかと後で気付く。
一瞬掴まれた手は、すぐに解放されて。
気がつけば黒尾くんは、私に背を向けてみんなの輪に戻って行く。
え?
何、いまの。
少し遠ざかった背中に向かって、
『うん。』
としか、言えなかった。
「舞衣ちゃん、大丈夫? 」
正気に戻してくれたのは、潔ちゃんの声。
『ええ、え、なにが? 』
「あ、なんかぼーっとしてる気がして...。」
『ああごめん、ちょっと、...だいじようぶ...。』
大丈夫じゃない、正直。
さっきからなんだ。
腕を回してきたり、手を掴んだり。
いつもと変わらない会話をしたのに。
いつもと変わらない黒尾くんなのに。
私はなんで、こんなに動揺してるんだろう。
近かったから?
きっとそうだ。
男の人にあんなに近付かれた経験、豊富ではないし。
うん。
無理やり納得させて。
私は午後のマネージャー業にうつる。