第1章 突然で偶然
『えっ! だめだよ黒尾くん、重いよ! 』
「俺の名前知ってたんだ? 」
ニヤリと笑ってきいてくる黒尾くん。
その表情に一瞬固まった隙に、彼は2箱の段ボールをヒョイと持ち上げる。
『え、本当に大丈夫? 重くない? 』
「だーいじょぶだって。 そんなひょろく見える? 」
『そうじゃなくて...』
申し訳なさを感じる私の気持ちを汲み取ったのか、
「じゃあ、これ持っててくんね? この、指のとこにある鍵。」
『え、これ? 』
段ボールを持っている黒尾くんの手から、鍵を受け取る。
「そー。それあると持ちにくいからさー、助かるわー。で、どこ? 」
『あっ、えと、じゃあ、2年4組まで...。』
「りょーかい。行くか。」
段ボール2箱を持っても私より歩き出しが速い黒尾くん。
私は鍵を持って、慌てて着いていく。
鍵は部室棟のものだ。『バレー部 男子』とタグに書かれている。
『部室の鍵? 』
「ん? あー、そうそう。俺バレー部なんだよね。」
歩くスピードをさり気なく緩めて、私に合わせてくれるのは黒尾くんが優しいからだ。きっと。
『知ってるよ。バレー部の黒尾くん、有名。』
「マジで!? なんか恥ずいな。」
『球技大会、かっこよかったね。』
「はは、そりゃドーモ。」
黒尾くんの隣に立つと、改めて背の高さを感じる。
いつも黒尾くんが他の男の子と歩いてる時は、腰の高さが全然違うなあなんて思ってた。
でも、隣に並ぶと、背は高いけどそれだけじゃなくて。
少し見上げた位置にある顔とか、喉仏とか、しっかりした肩幅とか、
「なに? 俺の顔、なんかついてる? 」
またさっきみたいにニヤリと、イタズラをした子どもみたいな顔。
『いや...男の子だなって...』
「は?? 」
私の言葉に、少し笑いながらも「何当たり前のことを」的な反応をする黒尾くん。
「なに? 男として意識したってこと? 」
『いや、そうじゃなくて、』
「違うのかよ! 」
『黒尾くんって、背が高いなって印象しか無かったから。』
「失礼すぎね? 」
『ふふ、ごめん。』
「笑ってんなよ。」
他愛のない話をしながら、教室までの距離はあっという間で、
ありがとう、とお礼を言うと、「いーえ。またイツデモ。」なんて社交辞令を返してくれて。
これが初めての会話だった。