第1章 突然で偶然
だから1年生のある日、廊下で彼を偶然見かけた時は驚いた。
他の男の子よりも、腰の位置が違う。
頭1つ抜きでた身長。
「黒尾」
周りにそう呼ばれていた。
それから私は、廊下や合同授業では、たまに彼を探した。
どちらかというと、探してる半分・背が高いから目に入ってしまうのが半分。
背の高い彼を見つけると、自分がそんなに高くない気がして。ほんの少しだけ、嬉しかった。
そういえば、球技大会で見かけた時は、彼がバレーボールで素人目にも鮮やかな動きをしていたことに驚いた。あとで聞いた話では、どうやらバレー部に入っているらしい。納得。
彼と初めて話したのは、2年生の時。
放課後に、委員会の仕事を任された時だった。
その日は一緒の委員会の子が休みで、クラスに配布する資料を教室まで1人で運ばなきゃいけなくて。
職員室で資料を受け取ったはいいものの、段ボール2箱分。
職員室のある2階から、教室のある4階まで、さすがに1度には運べない。というか、職員室から運び出す時、1箱ずつでもかなり重かった。
2箱どころか、1箱持って階段を登りきれるかすら微妙だ。
先生に「大丈夫です」と言った手前、今更手も借りれない。
さて、どうしたものか。
段ボールを目の前ににらめっこをしていると、
「失礼しましたー。」
私がいる方と反対側の職員室のドアがガラリと開いて、「黒尾」くんが出てきた。
その瞬間、ふと目が合う。
『あっ』
思わず声を出してしまった。
「黒尾」くんが、目をそらせないでなんとも言えない顔をしていたのは、今でもよく覚えてる。
「...えっ、と、倉尾さん、だよね? 」
『えっ? 』
名前を突然呼ばれて、自分が驚いた顔をしていることがわかった。
まさか知られてるなんて思いもしなかった。
私が勝手に見ていただけ。
話したことも無い。
「あれ、違った? 」
『や、違くない...。』
「だよな。それ、持ってくの? 」
私の足元にある段ボールを一瞥して、「黒尾」くんはきいてきた。
『え、あ、うん...。でも重たくて、今覚悟決めてたとこ。』
「なんのだよ。」
はは、って軽く笑って。
「持つよ。どこまで? 」
「黒尾」くんは、段ボールに手をかけた。