第6章 夏合宿やるってよ
この時間が続けば、なんて。
一瞬頭をよぎった気がするけど、
「倉尾ー! 黒尾ー! 」
そんな思考はすぐに、目の前から歩いてくる声にかき消された。
やっくんと海だ。
『おはよ。みんなはやいね? 』
「おまえらもなー。」
夜久と海と合流して、4人で歩く。
前に海とやっくん。
後ろに私と黒尾くん。
こんなふうに登校するなんて、少し前まで考えられなかった。
そう考えた瞬間、ふと、昨日の潔ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。
『...ねぇ、黒尾くん。』
「んー? 」
『やっくん。海。』
「おう。」
「何? 」
わざわざ振り向いてくれるやっくんと海。
隣を向いてくれる黒尾くん。
『...春高...行く? 』
まるで遊びに誘うかのようにきいてしまった。
続いていた会話と前に進んでいた足は、ピタリと止まる。
一瞬の沈黙は、5分くらいに感じてしまった。
「...俺は、」
最初に口を開いたのは、黒尾くん。
「俺は行きたいと思ってるよ。」
いつになく真剣な表情。
真っ直ぐな目。
私が好きな主将の黒尾くん。
「うん。俺も行きたい。」
「俺も。バレーやってねえと、何したらいいかわからん。」
海の言葉と。やっくんの言葉が続いて。
一瞬歩みが止まった足は、また前に向けて進み出した。
「あ、でも、倉尾は無理すんなよ? 元々俺らが無理矢理誘ったし、進学希望だろ? 」
『それはみんなもでしょ? 』
夜久がこの間、専門学校のパンフレットを手にしていたことも。
大学選び用の雑誌を、教室の片隅で海がめくっていたことも。
黒尾くんが模試の志望校欄に大学を幾つか書いていたことも。
全部知っている。
彼らが勉強を理由に部活を辞めたくないことを、私は知っている。
私もそんな彼らの気持ちが、じわじわとわかってきた気がする。
『私も行きたいよ。春高。』
素直な気持ちを口に出す。
黒尾くんは、またいつもみたいにニヤリと笑って。
「それなら皆で行くしかねえな。」
なんて言うから。
試合の時、黒尾くんの言葉でテンションが上がる選手の気持ちが、少し分かっちゃう。
『ちゃんと春高まで連れていってね? 』
烏滸がましくもそう言えば、3人で口を揃えて、「もちろん。」って。
ここが私の居場所と言える今が、とても誇らしかったりした。