第5章 放課後、音駒高校体育館にて
『甘えろって...私なにもしてないのに...。』
「いやー。カワイイ子からの激励は、男は喜ぶもんデスヨ? それに試合前ときたら、5割増し? 的な? 」
『もー、だからからかわないでってば! 』
帰り道の時のような。いつもどおりの会話。
黒尾くんと、最初感じてたぎこちなさが少しづつ消えてきたのは、いつからだろう?
「ま、みんな感謝してるんだよ。倉尾が来てから、普段雑用させられてた奴も練習に専念できるし。俺らも後ろめたさ感じず練習に没頭できるし。」
『そうなの...? 』
「そーそー。」
『...私だって、感謝してるよ。』
「ん? 」
『なんにもない! さっき振られた時、黒尾くん振りやがってこのやろーとか思ってごめんね! 』
「そんなこと思ってたのかよ! 」
2人で笑いあって。
やっくんに、早く歩けって少し怒られて。
「んじゃま、応援ヨロシク〜」
いつもどおり飄々と、手をヒラヒラと私に降って。
あの血液宣言は、ちょっとよくわからないけど。研磨くんも嫌がってたけど。それなのにみんな思ったよりノリノリだから余計にちょっと謎だけど。
まぁみんなの気合いが入るならいいや。
普段は、あんなに飄々と、たまにふざけて、たまに大声だして、ニヤニヤと意地悪い顔をする時もあるくせに。
コートに入っちゃえば、ピンと伸びた背筋。凛とした表情。
音駒高校バレー部の、主将の顔。
うん。
やっぱりあの雰囲気、好きだなぁ。
攻撃の要になって。
上手くチーム全体のバランスもとって。
攻守ともにほどよくできる、所謂オールラウンダー。らしい。
〝守りの音駒〟の呼び名は、気に入ってる。
いつだったかの帰り道、黒尾くんはそう話してた。
まさに、その名前に恥じないボール運びと身体運び。
その名前に恥じないために、3年間積み重ねてきた練習。
1回戦。
2回戦。
ボールを落とさないよう。
身体を動かして。
繋いで。
ボールを止めずに。
音駒の脳を、動かして。
拾って。
繋いで。
凄い。
このままあっという間に、全国に行っちゃうんじゃない?
そんな甘い考えが、一瞬頭をよぎった。
それが、悪かったのかな。
世の中そんなに、何でもかんでも上手くはいかない。
音駒高校の夏。
去年のインターハイ予選ベスト4と激闘を遂げて。
ベスト8で幕を閉じた。
