第1章 突然で偶然
音駒高校に入学して、あっという間に3年生になった。
今年のクラスは3年5組。
仲が良かった子とは幸いにも同じクラスだった。高校生活最後の年は、友人関係で苦労することは無さそうで一安心。
今年は受験の年。
あと1年でサヨナラを告げる仲間と過ごす、最後の年だ。
「おーい、倉尾さん? 」
『んっ、』
何となく1人で勝手にしんみりしてたら、前から回ってきていたプリントに気付かなかった。
私の前の席の黒尾くんは、プリントをひらひらさせながら私に声をかける。
『あっごめんねっ、』
慌ててプリントを受け取った。
幸い私の後ろには誰もいないから、誰にも迷惑をかけてないけど。
「なんかマヌケな顔してたよ。」
『え、失礼。』
「ははっ」
黒尾くんは、余計な一言を私に残して前を向いた。
「黒尾ー。喋るなー。」
「へいへーい、すんませーん」
先生からの注意を軽く受け流す彼は、クラスからの視線が一気に集まるのに飄々としている。まるで猫のよう。
「今配ったプリントは、進路調査だから...」
先生が静かになった教室に向けて話し始める。
黒尾鉄朗くん。
今年初めてクラスが同じになった。けど、知っている。
入学当初から、背が高くてよく見ていた。
私の身長は166cm。別に高すぎる方じゃないんだけど、どうやら私たちの学年は男女共に背が低い人が多いらしい。
中学の時は「どちらかといえば高い方」だった身長は、高校に入ると「学年の女子で高い方から5人以内」の身長になってしまった。
残念ながらモデルみたいに綺麗な脚ではないし、ヒールを履くと男子の身長を越してしまう。
中学の時は特に気にしていなかったけど、高校に入ってからいつの間にか、ヒールの高い靴を買わなくなった。