第4章 ただの同級生
「あのー...さ。」
『うんっ。』
「マネージャーなんだけど、」
『うん。』
「倉尾が良ければでいいんだけど...またやってくんない? 」
『え? 』
それは、今1番思いを馳せていたものへのお誘い。
「や...このまえの遠征、いつも裏方やってる奴らも練習に集中できてさ。やっぱ、レギュラー以外の奴も、当然試合は出たいわけだし、でもマネージャーがいないと練習はレギュラー優先になるし...。」
あ、主将の黒尾くんだ。
自分がレギュラーなんだから、自分の練習ができてラッキーとか、そういうことは全く思っていない。
部のことを、部員のことを。一番に考えた、黒尾くんの言葉。
主将の黒尾くんを見るのは、なんだか好きだった。
『...それで、追いかけてきてくれたの? 』
「あーー...うん。まぁ。」
『え、練習は? 』
「昨日も練習試合だったし、今日は休みって監督が。」
『あ、そうなんだ...。』
私のために、黒尾くんが追いかけてきてくれた。
その事実は、素直に嬉しい。
必要とされている、って、嬉しい事だったんだな。
「まぁ、考えておいて。」
じゃあ俺帰るから、と、私の焦げ茶の頭にポンと手を乗せて、元来た道を帰る黒尾くん。
うわ。
なんていうか、慣れてるなぁ。
不覚にも、少しだけ、キュンとしてしまった。
少しずつ遠のく黒尾くんを、そっと見守ってから。
私は一瞬黒尾くんの手が触れた場所に、自分の手を置いて、黒尾くんの感触を思い出す。
『黒尾くんを好きな子に怒られそー...』
誰にも見られていないことを願い、私は家の玄関をあけた。