第4章 ただの同級生
合同練習会を終えて、初めての登校。
「倉尾ー、はよーっス」
『やっくん、おはよー。』
今日は珍しく、クラスに向かう廊下でやっくんに出会った。
日直で、朝から職員室に行ってたらしい。
合宿のマネージャーありがとう、から会話は始まって。
今日の一限嫌だな、とか。でも職員会議あるから終わるの早いかも、とか。来週模試だね、とか、進路悩むなぁとか。
そんな話をしているうちに、たどり着いた3年5組。
廊下側から2列目。1番後ろから2番目。
黒尾くんは今日も、とさか頭を机に突っ伏している。
「クロー! おはよーっ! 」
「あはは、クロまた寝てんじゃん。」
「てかクロの机小さくない? 」
きゃはは、って、女の子独特の笑い声。
黒尾くんの周りには、またいつもの女の子達が寄ってきている。
私はやっくんと離れて自分の席へ向かう。
廊下側から2列目。1番後ろ。
黒尾くんの後ろの席。
カタン、と、バッグを置く音。
のそのそと身体を少しだけ起こす、目の前の背中。
「おー...倉尾、はよー。」
『おはよう、黒尾くん。』
身体は机の方向。
顔だけをこちらに向けて、黒尾くんは挨拶をしてくれた。
「舞衣おはよー。」
「はーよー! 」
黒尾くんのそばにいた女の子たちも、私に挨拶をしてくれて、私はそれに一人一人『おはよう』と返す。
「つーかお前らうっせーよ! 」
「きゃはは! クロ朝から元気〜! 」
「俺は寝てんのー。疲れてんのー。静かにしてくれませんカ?」
「えー、つまんなーい。」
賑やかな黒尾くんの周り。
私と黒尾くんは、ただの同級生。
席が前後で、おはようを言い合って、
「あ、なぁ倉尾。」
『ん? 』
「宿題やった? 今日の2限の。」
『やったよー。合ってるかわかんないけど。』
「まじで。見してくんね? 」
『ふふ、良いけど、間違ってても知らないからね。』
「おー。上等。」
たまに話をするだけの、友達。
私達の関係は、合宿前に戻った。
それだけ。変わらない。
いつもどおりの日常。
どこか寂しい気がするのは、きっと春の風がまだ冷たいからだ。