第3章 烏野高校排球部
「倉尾さんは...」
『あ、舞衣でいいよ。私も潔ちゃんって呼んでもいい? 』
「あ、うんっ。じゃあ、舞衣ちゃんは、バレー好きなの? 」
『ううん。全然。球技ができないし、ルールすらわかんなくて。ここ数週間で、みんなに教えて貰ってやっと少しずつ覚えてきたところ。』
「そうなんだ。」
『うん。中学の頃は陸上部だったんだけど...』
「えっ....私も、陸上部だった...。」
『えっ! そうなの! 』
潔ちゃんとは、そこから一気に距離が縮まった。気がした。
潔ちゃんは少し恥ずかしがり屋だけど、優しくて一生懸命。
私は誰とでもそこそこ仲良くなれるけど、潔ちゃんと一緒に話したりマネージャーの仕事をしたりするのは気が楽だった。
この子が音駒にいたら、絶対毎日一緒にいる友達になっていただろう。
そう思う反面、いやでも、今回マネージャーを引き受けたからこそ出会えたんだ、とも思う。
別に普段、色々な友達と付き合うのに無理をしているわけじゃない。ただ、周りの人みんなが円滑に過ごせるよう、常に少し気は張っている気がする。
だから、何となく自然体でいられる潔ちゃんの隣はなんだか心地よかった。
飛んでくるバレーボールを手で弾きながら、私は潔ちゃんと椅子を出したり不必要なボールを片付けたり、試合の用意をしたりと一緒に動く。
やっと一段落つくかな、というところで、私と潔ちゃんの元に、赤いジャージが小走りでやってきた。
「うぃーす。」
黒尾くんだった。
『黒尾くん。どうしたの? 』
「や、上手くやれてるかと思ってさ。」
『潔ちゃんのお陰でなんとか動けてる。』
「それは良かった。ところで倉尾、」
『ん? 』
「絆創膏くれねぇ? 」
そう言った黒尾くんの指先には、血が滲んでいた。
『えっ! 早く言ってよ!! 』
ちょうど近くに備品バッグが置いてあったので、そこから急いで絆創膏を持ってくる。
戻ってきた時には、黒尾くんも潔ちゃんに案内されて傷口を洗った後だった。
「わりーな。」
『私の仕事してるかより、こっちの方が大事じゃん...。』
「心配した? 」
ニヤリと、いつか見た悪戯っ子のような表情で私の顔を覗き込む黒尾くん。