第16章 春への1歩
試合は、研磨くんの予想通り。危なげなく進んで。
夜。
久しぶりの電話。
“すごい、東京の4校に残ったの? “
『ふふ、ありがとう。』
今日無事に、春高代表の決勝戦進出が決まった。
『潔ちゃんは? 』
“うちは来月。”
『来月かぁ。』
潔ちゃんは、今日は珍しく沢山話をしてくれた。
烏野は、宮城では“墜ちた強豪、飛べない烏”と言われていること。
春に日向くんと影山くんが来て、活路が見えた気がしていたこと。
それでも、インターハイ予選で、青城相手に負けたこと。
『及川徹、知ってる。月バレ載ってたよね? 』
「うん。」
『宮城、競合してるよね...。ウシワカもいるし、及川徹もいるし....』
「出場権、2枠くらいあればいいのにね? 」
『あはは、確かに! 』
潔ちゃんの冗談、珍しい。
でも前よりは言ってくれるようになったのが、距離が近くなったようで嬉しい。
「...あの時は、どう声をかけたらいいかもわからなかった。」
『...そうなんだ。』
「澤村なんて、そのまま辞めようとしてたよ。」
『そうなの!? 』
「うん。3年はあそこで引退する人も多かったし。」
『...あ、そうだね。』
そうだ。
夏のインターハイが終わって。
引退しちゃうのかな、と一瞬不安だったけど。
黒尾くんも、やっくんも、海も、私に「春高に行く」と言ってくれた。
『東京の残った4校、どこも強いんだ。』
「どこが残ってるの? 」
『音駒と、梟谷と、井闥山と、戸美。』
「井闥山って、井闥山学園? 」
『そう! 三本指エースの佐久早聖臣がいる、優勝候補だよ。』
「そうなんだ。」
『今年は開催地特別枠があるから、3校に入れればいいんだけど...』
バレーの知識も他校の情報も、少しずつ増えた。
「大丈夫。私たちが1番、大丈夫ってところを見てきたから。」
潔ちゃんの言葉は、私の不安を飛ばしてくれる。
潔ちゃんとも、マネージャーにならなきゃこんなに話してなかったなぁ。
『私達は、私達のできること、最後までやらないとだね。』
「うんっ。」
秋の空。
潔ちゃんとの電話を切って、私は机に向かう。
春への道。
あと1歩だ。