第16章 春への1歩
『研磨くんの見立てはいい感じですか? 』
「うん...まぁ、大きなミスとかアクシデントさえなければ...。」
『そっか。』
研磨くんの言葉が百発百中というわけでは、勿論ないけれど。
でも、研磨くんの“大丈夫”は、確かな裏付けに感じて安心する。
それは、音駒の共通認識。
空は秋晴れ。
ああなんか、今日は秋刀魚の気分。夕ご飯、秋刀魚だといいなあ。
両手をあげて、軽く伸びをする。
『いい天気だね! 』
「暑くならないといいけど...」
『あはは、確かに! ドリンク多めに用意しとこうかな〜。』
「......舞衣も、無理しないで。」
『ふふ、ありがと。でも研磨くんの方が動くんだから。気をつけてね? 具合悪くなったらすぐ言ってね? 』
「...俺は別に...」
まだガチャガチャと言い合いをしたりじゃれあったり。
楽しそうな声が聞こえるのを、2人で少し遠巻きに眺める。
研磨くんは、バレーボールをどう思ってるのかな。
音駒のメンバーのことをどう思ってるのかな。
ふと思う。
どちらも、別に嫌いなわけではないんだろう。
だけど、他のメンバーに比べたら、部活に対しても人間関係に対しても少し消極的。
それが研磨くんらしいと言ってしまえば、それはそうなんだけど。
嫌々、無理矢理、と言うつもりはない。
だけど、みんなみたいにわかりやすく打ち込んでいないのは何となくわかる。
どんな気持ちで?
それは、純粋な疑問と興味だった。
夏の合宿で、黒尾くんがバレーに誘った、という話を少しだけ聞いた。
黒尾くんは、優しいから、どこかで引け目を感じていたり、するのかな。
そこまで考えて、やめようと思う。
幼馴染の2人。
私よりもずっと長い時間を一緒に過ごした2人。
彼らの関係性を勝手に推測して口出しするのは、ちょっと野暮だ。
ただ、みんなが少しでも、すっきりとした気持ちや嬉しい気持ちで今日を過ごせたら。
騒がしい体育館へ、1歩入る。
どうか、音駒が今日を笑顔で終えられますように。