第16章 春への1歩
毎日の練習を経て。
テストを抜けて。
今回も赤点取らなかったし(またバレー部居残り勉強会が開催されたおかげ)。
授業、練習、受験勉強。
黒尾くんと、海と、やっくんとの帰り道。
そんな日々をぬけて。
11月。
朝晩どころか、日中も段々涼しくなって。
会場内でも、試合まで長袖のジャージを着る人が目立つ。
「女子の試合も凄いですよねー! 」
『ね! かっこいいなぁ。』
隅田総合体育館の一角。
私は、試合状況の確認に芝山くんと来ている。
この試合が終われば、次は男子の試合。
代表決定戦だ。
『もう第3セットも終盤だね。』
「ですね。黒尾さんに声掛けますか? 」
『うん、そうだね。私、ドリンクとコートの最終確認するから、芝山くんは黒尾くんに声掛けてきてもらってもいい? 』
「はい! 」
緊張を含みながらも元気に返事をする後輩を、笑顔で見送る。
黒尾くんと、2人きりで話すことは少し減った。
やっくんが、2人きりだと話しかけてくることが多いから。
おかげで私も、気まずくならずに過ごしている。
黒尾くんに彼女がいることも。
もう少し時間が経てば、卒業すれば、きっといつか、「そんなことあったなあ」って消化出来ると思う。
それまでは、やっくんの力も借りながら。
受験勉強で気を紛らわせながら。
今までどおり、マネージャーとして黒尾くんの側にいよう。
この気持ちは、受験にもバレーボールにも、黒尾くんの恋愛にも邪魔だから。
もう誰にも言わない。
でもせめて、マネージャーとして、きちんとサポートができるように。
すっかり慣れた事前の準備も、きっちり確認する。
ドリンクの数もオッケー。
記録票も準備した。
大会順も覚えたし、回るコートもすぐ見えるところにメモしてある。
テーピングやアイシングも、念の為。でも、幸運にも、音駒は大きな怪我をする人がいない。たまに練習で小さな怪我くらいならあるけど。
今日も無事に、みんながバレーボールをできますように。
今日も使わないで済むといいな。