第8章 魔王の告白
桶に手拭いを浸し、絞る音が聞こえると、そっと私の背中にその手拭いがあてられた。
私の首筋から背中を手拭いが滑り、優しく汗を拭っていく。
手拭い越しなのに、節くれだった指をたまに背中に感じると、どうしても身体がぴくりと反応してしまう。
『貴様の方が俺を意識しておるのか?』
さっきの言葉......もう自分の気持ちがバレてしまったのかと思ってどきっとした。
だって、その通りだから......
こんなにも恥ずかしくて意識してしまうのは、私が信長様を好きになってしまったから。
第六天魔王と呼ばれ、人々から恐れられている残虐な存在だと聞かされてきた男は、会った時はその目の冷たさに驚いたものの、日を重ねるごとに温かみと優しさを増していき、親の仇だと言う事も忘れそうな程に、どんどん心を奪われていった。
でも、これは決して叶わぬ恋で、想いを伝える事は許されぬ恋。
この城を出る最後の時まで決して気づかれてはいけないんだ。
顔に熱が徐々に集まっていくのが分かり、この気持ちを悟られないように、信長様に話かけた。
「あの、私、余り湯殿での記憶がなくて....、乱暴されそうな所を助けてもらったのに、更に迷惑をかけて.......」
うそ。
本当は少し覚えてる。
痛い位に痕を付けられて、苦しいほどに抱き締められて抱かれた事を.....
だけど同時にそんな信長様を愛おしいと思ってしまった。抱きしめ返してあげたいって.......
「貴様は何も悪くない。もう忘れろ」
信長様は淡々と答え、背中を拭いていく。
「でも、.....あの人達は.......?」
思い出すだけで身体は震えるし、もう顔を見れる自信はないけど、でもやはりあの人達の死は望んではいない。
「......貴様の望み通り、殺してはおらん。だが貴様に二度と近づけんよう城の外に放り出したゆえ安心しろ」
手拭いで拭く手を止めて、信長様は少し震える私を背中から抱きしめた。
「あ、ありがとうございます」
信長様に抱きしめられると、きゅっと甘い感覚が広がって心の臓は途端に速くなる.......
少し前から、抱きしめられれば必ずこうなった。何でなのか分かろうとはしなかったけど、好きだと気づいた今なら分かる。
好きな人に抱きしめられると、こんなにも嬉しくて幸せな気持ちになるんだ。