第8章 魔王の告白
「私..........」
身体を起こし見渡すと、すっかり見慣れた天主の部屋にホッとする自分がいる。
あの頃は、夢にうなされ目が覚めて最初に見えるのは自分しかいない真っ暗な部屋の天井で、自分はもう天涯孤独なんだと言う現実に何度も潰されそうになった。
けれどここに来てからは、うなされる度に伸ばした手を信長様が掴んで抱きしめてくれ、その温かさに孤独を感じる事なく深い眠りにつくことができた。
抱かれた夜は体力的な限界もあってかぐっすりと眠れて、その内に、抱かれなくても信長様の腕の中で眠るだけでその夢を見なくなった。
確か昨夜も久しぶりにあの夢を見たけど、やはり信長様が伸ばした手を掴んでくれて”行くな戻ってこい”と言って抱きしめてくれた。
なのに私は、
『なぜ......殺したの?...父上、母上....ごめんなさい私は......』
夢うつつだったけど、責めるように信長様に言った事は覚えてる。
『必ず生きて、幸せになりなさい。人を愛し、愛される日がきっとあなたに訪れます。あなたを何よりも愛しみ、強く愛してくれる殿方の姿が私には見えるのです』
母上は何かにつけてよくこの言葉を私に言っていた。それは最後の瞬間もそうで、
人を愛し愛される日........
そんな日は来ないと思っていたけど、私は信長様の事が好きなのだと、あの時はっきりと自覚してしまった。
決して、好きになってはいけない人なのに....
「空良、起きたか!」
私が起きた音で気がついたのか、隣の部屋から信長様が入ってきた。
「信長様、...っ!」
顔を見る間も無く抱きしめられた。
「やっ、あの、私汗を掻いていて汚いので、その、離れてください」
汗だくでべたべたしていて出来れば離れてほしい。
「構わん、後で拭いてやるからとりあえずじっとしていろ」
全然構わなくはないけど、余りに優しく抱きしめるからそれ以上は何も言えなくて......とりあえず離してくれるまで、私は信長様の腕と胸の温もりを感じた。
暫くして身体を離してくれた信長様は、湯の入った桶と手拭いを女中に持って来させ、再び私の前に腰を下ろした。