第7章 言えぬ思い〜信長編〜
襖を開けても空良はいない。
いることが俺の中で既に当たり前になっている事に気づく。
やがてパタパタと足音が聞こえてきた。
俺の命令とは言え、空良の戻る場所がこの部屋だと言う事に何故か心が浮き立つ。
『遅い!』
『すみません、わっ!』
息を切らせてこっちへ来る空良の手を引き抱き寄せた。
小さな身体は俺の腕の中にすっぽりと収まり、ふわりと香る空良の甘い香りに理性が吹っ飛びそうになるが.....
『待つのは性に合わん。夕餉はもっと早く戻ってこい』
己の欲を抑えて平静を装う。
『ちゃんと、付けておるな』
俺のものだと言う証の耳飾りを.....
『外したら......怒るくせに』
『当たり前だ。それを外せば想像を絶する仕置きが待っていると思え』
心は俺になくとも、貴様は俺のものだと言う証を外す事は許さん。
『女中の着物はどうした?それに着替えると言っておっただろう?』
俺が渡すなと命令したが、空良がどんな憎まれ口をきいてくるかが楽しみでけしかけた。
『信長様が私に渡すなとおっしゃったんでしょ?そう聞きましたけど....』
思った通り、空良は口を尖らせ俺をムッとした顔で見てきた。
『ふっ、口止めした筈なのに口の軽い奴がいたものだ、どの女中だ、処罰せねば』
そんな気は毛頭なかったが、可愛い反応にもっと虐めたくなる。
『え?そんな事で!?』
心優しき俺の刺客は俺の嘘にも気づかず焦りを滲ませる。
『俺はこの城の主人だ、その俺の命に背くは重罪。殺されても文句は言えん』
『そ、それだけはやめて下さい。もう私の様に大切な人を失って信長様を恨む人を増やしたくありません』
俺を恨まなくても...........か、
『なら、貴様から口づけよ。それでその女中を咎める事はやめてやる』
空良の可愛らしい顎を掴んで顔を近づけるとその頬は赤く染まった。