第7章 言えぬ思い〜信長編〜
だが許可した途端、女中の姿で仕事をすると言い出した空良に、時期尚早だったのではとの思いがよぎったが、思いの他活き活きとしている空良にダメだとは言えず、耳飾りをつけさせる事で外に出した。
あの耳飾りは、伴天連がこの安土に来た際、布教活動の許可と友好の印として持ってきた石で、何でも外国で人気の”だいやもんど”と呼ばれる石以上に珍しく、中々手に入らない色みなのだと言っていた。
確かに透き通る空色の石は珍しく、城の者達にも見せてやろうと暫くは広間に飾り、誰でも見られるようにしてあった。だからこそ、そんな耳飾りを空良の耳につけておけば、空良を見たことがない者でも俺の女であると分かり安全だと思っていた。
城内ならどこでもと許可をしておきながら、どこで何をしているのかが気になり軍議に集中できない。
『あの子、廊下の拭き掃除してましたけど、天主から出したんですか?』
朝の軍議を終え、家康が質問をしてきた。
『ああ、いつまでも、あのままと言うわけにはいかんからな』
その内、安土の城下町も見せてやりたい。
『何も起こらないといいですけど.......あの子、本当に信長様の命を狙ってきたんですか?虫すらも殺せなさそうなのに..........この間も必死で効きもしない解毒剤を貰いに俺の部屋に走り込んで来ましたけど?』
『何だ家康、珍しいな、貴様が人に興味をもつとは.....』
人質生活の長かった家康は、余り人に興味を抱かず、人間関係を築こうともともせんのに、それだけ、空良の存在は興味を引くと言うことか?
『別に....珍しいのは信長様の方でしょ?あなたが人に興味を持つのは初めて見ました』
『そうだな.........』
最早興味の範疇を超えた気持ちを持て余しながら、昼餉を待たず、俺は天主へと戻った。