第6章 言えぬ思い
初めて会った時の印象は最悪だったけど、話すと意外に良い人?
家康の助言は簡単に聞き流してしまった私はその後も本丸御殿の掃除を続け、昼餉の時刻となったので、耳飾りを付けて一旦天主へと戻った。
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「遅い!」
天主の階段を上がると、信長様が苛立ちを露わに開かれた襖にもたれて待っていた。
「すみません、わっ!」
一瞬で、信長様の腕の中。
朝餉から昼餉までの僅かな時間を離れただけなのに、しかも普段だって同じ時間は離れ離れなのに..........
「待つのは性に合わん。夕餉はもっと早く戻ってこい」
「.........はい」
別に待ってなくてもいいのにと思ったけど、何を言っても口づけされてしまいそうで、言葉を飲み込んだ。
「ちゃんと、付けておるな」
思った通り、信長様は私の耳飾りがちゃんとついているかを確認した。
「外したら......怒るくせに」
「当たり前だ。それを外せば想像を絶する仕置きが待っていると思え」
何とも恐ろしい言葉に、本当は外していたとは絶対に言えないと冷や汗が流れる。
「女中の着物はどうした?それに着替えると言っておっただろう?」
信長様は次に意地の悪い質問をする。
「信長様が私に渡すなとおっしゃったんでしょ?そう聞きましたけど....」
「ふっ、口止めした筈なのに口の軽い奴がいたものだ、どの女中だ、処罰せねば」
「え?そんな事で!?」
「俺はこの城の主人だ、その俺の命に背くは重罪。殺されても文句は言えん」
「そ、それだけはやめて下さい。もう私の様に大切な人を失って信長様を恨む人を増やしたくありません」
本当に.......あなたを恨まなくて済むのならどれだけ良かったか.......
「なら、貴様から口づけよ。それでその女中を咎める事はやめてやる」
私の心配をよそに、楽しそうな顔が私の顎を掴んで顔を近づけてきた。
「っ.............」
「早くしろ」
「ひ、卑怯です!」
「ふんっ、貴様の様な者を増やしたくないなら..........!」
やられっぱなしは何だか色々悔しくて、信長様が言葉を言い終わる前に、信長様の顔をぐいっと引き寄せて口づけた。